人を見る観察眼を養うことで人間関係を改善する
今回は、「人間関係の心理学」について学ぶ連載記事の2回目です。
今回扱う題材は「人間関係の心理学」ですが、
その目的は「他者理解を深めることを通じて自己理解を深める」ということです。
さて、
「人間関係の問題」というのは一言で言い表すならば
「距離感の問題」
であると言えます。
言い換えるならば、距離感さえ間違えなければ人間関係のトラブルに悩まされることはないということです。
しかし、人間関係というのは千差万別。10人の知人がいるなら、十通りの距離感のとりかたがあるということです。
では一体どうすれば距離感を適切にはかることができるのか。
そのために大切はなことは、「他者理解」です。
そしてそれだけではなく、自分自身がどのような人間なのかをしる「自己理解」も同じくらい大切です。
もし、あなたが人との関係に悩んでいるのなら、
その問題について考える以前に、あえてその人自身について知ることから始めると良いでしょう。
問題自体を解決しようとするよりも、相手を理解し距離感を見つめることから始める。
仮にそれで根本的な問題解決にはつながらなかったとしても、
「相手が何を考えているか分からない」という不安が少しは楽になります。
今日の内容では、そんな他者理解のための1つの手段として、他者を見るときの「観察眼」について紹介します。
性格分類知識によって人を見る視点を増やす
今日紹介するのは、性格分類法の知識です。
これは私の意見ですが、性格分類系の知識を学ぶということは、「正解を知る」ということではなく、「人を見る視点を学ぶ」ということです。
そのため、学んだ知識でもって相手をその知識に無理やり当てはめていくような態度は宜しくありません。
それはいわば100人いれば100通りある性格を、数通りのステレオタイプに当てはめようとする無理な話で、性格分類知識の悪い面が強く出てしまいます。
あくまでも、人を見るときの視点(「観察眼」)を養うという姿勢が良いと思います。
例えば、目の前に泣いている人がいたとします。
ある人は、「何か悲しい事があったのだろう」と捉えます。
この人は、泣いた人を観察するときの視点が1つしかないので、泣いている=悲しい事があった、と短絡的に捉えてしまいます。
一方で、ある人は同じ泣いている人を見たとき、
- 何か悲しい事があった
- 悔しさ
- 恐ろしさ
- 怒り
- 何か嬉しい事があった
- 感動
- 驚き
- 体調不良
- お腹が痛い
- 頭痛がする
- そのほか
- 混乱している
といったように、
物事を見るときの視点が多いのでより多い選択肢を考慮に入れた上で立ち会うことができます。
他にも、相手が「ムッと」とした時。
それはこちらに対してイラっとしたとは限らず、逆にその人が自分自身の不甲斐なさにイラっとしたかもしれないのです。
それにも関わらず、相手がこちらに攻撃的な態度をしてきたと短絡的に決めつけ、こちらが怒ったり、はたまた同じようにムッとしたりすると、
話は噛み合わずすれ違いが大きくなる一方です。
先ほど、人間関係の問題とは、「他人との距離感の問題」と言い換えましたが、
他人との距離感を間違えるというのはまさに、こちらの視点が不足し、相手を理解できず、噛み合わない態度をとった結果として起きます。
今日はこれから、「性格分類法」としていくつか即効性が高く覚えやすいものを紹介します。
ただし、ここで事前に述べたように、その知識は相手を何かパターン化させて捉えるために使うのではなく、相手を理解するときの視点を増やすというつもりで学んで見てください。
他者理解に役立つ3つの性格分類知識
ここでは、3つの性格分類知識を紹介します。
その3つというのは、
- 基本的な性格傾向を知るために・・・ユングの性格分類
- 相手のネガティブ反応の傾向を知るために・・・ローゼンツワイクのパーソナリティタイプ
- 相手の欲求の傾向を知るために・・・選択理論の5つの基本的欲求
さて、
基本的な性格、ネガティブ反応、欲求のありか
この3つについて、目の前の人を観察する視点が増えると、大体のことに対して適切な距離感を持てるはずです。
基本的な性格傾向を意識しながらコミュニケーションを取ることで、相手の言動に対して理解がスムーズになります。
相手のネガティブ反応の傾向を意識しながらコミュニケーションを取ることで、
相手の怒りの地雷ポイントを見極めたり、人間関係の問題に発展しそうな瞬間を回避できます。
相手の欲求傾向を意識しながらコミュニケーションを取ることで、
相手と良好な関係を積極的に築きたいとき、
もしくは相手とこちらの気持ちのすれ違いの原因をいち早く気づくのに役立ちます。
ポイントは、どれも「傾向に過ぎない」と思って使うと良いです。
「この人は絶対にこのタイプだ!!!」と早々に決めつけてしまうと、こちらの柔軟性が欠け逆効果になりかねません。
「傾向に過ぎない」くらいの気持ちで、これから紹介する知識を使って相手を観察する癖を持ってみましょう。
①ユングの性格分類(相手の基礎的傾向を知るために)
一つ目は、ユングの性格分類です。
スイスの精神科医・心理学者カール・グスタフ・ユングは、人間の基礎的な特製として、
「思考」「感情」「直感」「感覚」
の4つ取り上げ、さらにそれぞれ4つについて、人間の心的エネルギー(リビドー)の向い方によって「外交的」「内向的」の2種類に分類します。
つまり、思考面、感情面、直感面、感覚面のそれぞれについて、
人それぞれ外向きに力が働きやすいか、内向きに力が働きやすいかで基礎的な性格傾向が現れるということです。
外交的、内向的、というのはその言葉が持つ意味で捉えるよりも、イメージで捉えた方が適切です。
外交的・・・外向きの矢印、四方八方に広がっていく、内側から外側に飛び出す、外側に意識の重点がある、すばやい、てきぱき、とがる
内向的・・・内向きの矢印、中心に向かって収束、外側を内側に持ち込む、内側に意識の焦点がある、遅い、じっくり、太い
さて、それらのイメージでもって先ほどの「思考」「感情」「直感」「感覚」について一言加えますと、
・思考(外交的)・・・テキパキ理論的に結論を出す。しかしどこか機械的
・思考(内向的)・・・じっくり考える。遅め。しかし優しさ、人間味のある考え方
・感情(外交的)・・・気持ちを表に出す。気持ちのぶつかり合い。本音の関係。あっさり。
・感情(内向的)・・・気持ちを表に出さない。外出先と家とで異なる態度。押さえ込む。
・直感(外交的)・・・物事の展開に対して重点。先読みをする。推理をする。他人を判断する。
・直感(内向的)・・・自分の思いに対して重点。自分がどう思うか、気持ちを大切にする。人の意見より自分の直感。
・感覚(外交的)・・・流行アイテムへの感性、他人に求められている感性、デザイナー的感性
・感覚(内向的)・・・自分のこだわりへの感性、自分の好きなアイテム、芸術家的感性
以上を読んで頂ければ、外交的、内向的、という言葉が意味するところのイメージについて大体掴めるのではないでしょうか。
対人関係において、「思考面」「感情面」「直感面」「感覚面」の4つの面から、その人が外向きの傾向があるのか、内向きの傾向があるのかについて、意識する視点を持ってみましょう。
そうすることで、自分とは違う他者についての理解が深まります。
②ローゼンツワイクのパーソナリティタイプ(ネガティブ反応の傾向把握)
2つ目の視点は、ローゼンツワイクのパーソナリティタイプです。
アメリカの心理学者サウル・ローゼンツワイクは、
人間がフラストレーション(欲求不満)に直面したときの反応について3つの反応分類、
そして3つの攻撃分類をしています。
この知識を持つことの意味は、相手のネガティブ反応について事前に知るということです。
人間関係の問題というのは、このネガティブ反応について自分と相手とがバチバチした時に現れるとも言えます。
そのため、この知識をもつことで、自分と他者とのすれ違いを未然に防ぐのに役立ちます。
ローセンツワイクは、欲求不満がどこに向かうかについて、
①内罰的・・・責任を自分自身に向けるタイプ
②外罰的・・・失敗やトラブルの原因を周りに向けるタイプ
③無罰的・・・どこにも責任を求めないタイプ
の3つに分類します。
その上で、さらにその欲求不満の結果として表面化する攻撃性が向かう先として、
A 障害優位型・・・問題そのもに怒る
B 自我防衛型・・・問題より自分や相手など人間に怒る
C 欲求固執型・・・問題の解決に怒りのパワーを向ける
の3つに分類しました。
結果として9種類の分類(3x3で)ができますが、それらについて記憶に入れていちいち観察するのは大変ですので、
捉え方として、
相手が欲求不満を抱えていそう(もしくはこれから抱えそう)なのを見つけましたら、
まず初期の反応としてそれが、
①自分に向かう(内罰的)
②相手に向かう(外罰的)
③どこにも向かわない(無罰的)
なのか。
そして、その欲求不満によって蓄積した感情的な鬱憤がどこに向かうのかとして、
①問題自体に向かう(障害優位型)
②人間に向かう(自我防衛型)
③問題解決に向かう(要求固執型)
に注目しましょう。
例えば、相手が「外罰的x自我防衛型」ですと、集団の中では厄介とも言えます。
その人は何かトラブルになると、そのトラブルの原因を周りの人に向けて怒ります。
もしその人が集団の中で発言力が大きい場合には、結果としていじめ問題に発展しかねません。
その人が誰かを責める前に、集団の関心を問題自体であったり、問題の解決の方法に向けるように話の流れを誘導できると良いです。
一方で相手が「内罰的x自我防衛型」ですと、一人で抱え込んで、自分を責め、落ち込みがひどくなってある日突然、姿を現さなくなるということになりかねません。
その人が黙り込んでいるのなら、話を聞いてあげて、自分だけのせいじゃないこと、一人で抱え込まないでいいことを言葉がけしてあげると良いです。
以上のように、悪い展開が予想できるようでしたら、相手の傾向をいちはやくキャッチして、未然に防ぐ事が大切です。
覚える必要はありませんが、それらの3x3=9通りについてまとめますと次のようになります。(カッコ内は発言として具体的なあらわれかた。)
- 外罰x障害優位・・・欲求不満のありかをひたすら強調、人は悪くない、問題や環境が悪い(お金さえあればな〜)
- 内罰x障害優位・・・問題の責任は自分にあるとして責任をとろうとする。ひとまず謝罪する。(大変申し訳ございませんでした)
- 無罰x障害優位・・・欲求不満を軽視、軽く受け流す(ま、いっか。仕方ないっしょ)
- 外罰x自我防衛・・・相手を責め、自分を守る。非難されたと思い込んで相手に敵意を向ける(お前が悪い!自分は悪くない!)
- 内罰x自我防衛・・・自分がとにかく悪い。自分を責め、非難する。(自分のせいだ。自分が悪い)
- 無罰x自我防衛・・・自分も責任回避、相手にも求めない。許す。(まあいいさ、気にすんな、俺も気にしないから。)
- 外罰x要求固執・・・他の人や組織が問題を解決するだろうと思う(まあ誰かがなんとかしてくれるっしょ)
- 内罰x要求固執・・・自分で問題を解決しようとする(僕がなんとかするよ)
- 無罰x要求固執・・・時間が勝手に解決すると思う(まあそのうちなんとかなるさ)
③選択理論の5つの欲求(相手の欲求傾向の把握)
アメリカの精神科医ウイリアム・グラッサー博士が提唱する選択理論では、
人間には5つの大きな欲求があり、その5つの欲求の強弱は人によって異なると言います。
その5つの欲求は、
- 生存の欲求・・・健康や身の安全、長生きしたいという欲求
- 愛・所属の欲求・・・他人と深く関わっていたいという欲求
- 力の欲求・・・何かを成し遂げて自分の価値を証明したいという欲求
- 自由の欲求・・・束縛から離れ自立したいという欲求
- 楽しみの欲求・・・喜びを得て心を豊にしたいという欲求
の5つです。
人は、意識するにせよ、意識しないにせよ、そうした欲求を解消しようと行動を選択していきます。
この知識の使いどころは、自分にとって不可解な行動や発言を繰り返すとき、それがいったいどうしてなのかを理解する時に役立ちます。
例えば、夫婦や恋人関係が悪化した時。
よくある話としては、夫側は③力の欲求が強く、自分が一生懸命働くことで家族が幸せになると思い、それに向かって頑張る。その代わり家では自分の頑張りを称えてほしく家事育児はせずお客様モード。
一方で妻側は②愛・所属の欲求が強く、自分や家族が大切にされていると思いたい。そのために家事育児に頑張るが、肝心の夫は家にいる時に自分の事や家族のことはほったらかし。欲求不満から帰って疲れた夫にガミガミ。
夫は夫で悪気はありません。夫としては、自分が外で働いてお金を稼いで家を維持していることで、妻も子供も喜んでいると思っています。
妻は妻でもちろん悪気はありません。妻としては、結婚生活というのは家族で幸せな時間を過ごすことです。家で何もしない夫が理解できません。
もし、この2人が選択理論の知識を持ち、
・夫は妻が②愛・所属の欲求が強いことを理解。だから意識的に名前で呼ぶ。愛の一言をかける。スキンシップを大切にする。
・妻は夫が③力の欲求が強いことを理解。だから夫の頑張りを褒める。仕事で成果を出した時に褒める。感謝の言葉を意識してかける。
ということを行えば、夫婦仲の亀裂を修復することだって可能なはずです。
性格分類法の使い方
知識の使い方は人それぞれですが、指針としてここまで紹介した3つの知識についてその使い所、そして注意点を紹介します。
STEP1・・・基礎的傾向を見る
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まず、相手を見る時、あらゆる要素についてその人は「外向き」か「内向きか」についてみてみましょう。
物事の考え方、感じ方、判断の仕方など、それが外向きなのか、内向きなのか。
外向きだからいいとか、内向きだからいいとか、そのようなことはありません。
黙っているから、よく話すから、といったその人の一面だけを見て勝手に判断するのではなく、
一見社交的だけど、物事の感じ方は内向きだから、元気に振る舞っているけど家では反省会をしたりナイーブな面もあるのかな?
といったように、いろいろな要素において外向き、内向きの傾向があると思っておきましょう。
STEP2・・・ネガティブ反応の傾向を見てトラブルを防ぐ
ローゼンツワイクのパーソナリティタイプで学んだように、人によって欲求不満(フラストレーション)の現れ方は異なります。
反応の仕方として3通り。不満解消の仕方として3通り。
全部覚えるのは大変なので、イメージとしては、
- 人に向かうかどうか
- 自分に向かうか
- 他者に向かうか
- 問題に向かうか
- 解決向かうか
という視点をもっておくとよいでしょう。
STEP3・・・相手の欲求傾向を見てすれ違いを防ぐ
人によって優先順位は異なります。それは、選択理論が示すように人によって5つの欲求の優先順位が異なるからです。
- 生存の欲求・・・健康や身の安全、長生きしたいという欲求
- 愛・所属の欲求・・・他人と深く関わっていたいという欲求
- 力の欲求・・・何かを成し遂げて自分の価値を証明したいという欲求
- 自由の欲求・・・束縛から離れ自立したいという欲求
- 楽しみの欲求・・・喜びを得て心を豊にしたいという欲求
まず自分がどの欲求が強いか見てみましょう。意識的・無意識的、どちらであってもその欲求を解消する方向に言動が傾いてしまっているはずです。
一方で、相手がどの欲求が強いかも意識してみましょう。「この人はどうしてこんな態度や言動をとるのかな?」と思った時、それはその人にとっての欲求の優先順位と、自分自身も優先順位とが異なっているからもしれません。
まとめ
今日紹介したのは、他者を見る時、もしくは自分を見る時の視点です。
それは「正解を知る」ための知識ではなく、より深く理解するための視点を得るための知識です。
最初に述べたように、もし「泣く」という行為の原因として「悲しいから」くらいの視点しかないと、それは深い理解に繋がりません。
「泣く」という行為の原因には、多種多様な感情的背景があるという視点があればより深い理解につながります。
それと同じで、今日紹介した知識は他者を理解する時、そして自分を理解するときの視点となりえます。
- 基礎的な傾向理解のための視点
- ネガティブ反応の傾向理解のための視点
- 欲求の優先順位理解のための視点
として3つの性格分類法を紹介しました。
そしてもう一つ、注意点としては、それらの知識は「傾向」程度に捉えておくようにしましょう。
人というのは変わり得ます。年齢によって、立場によって、そのときの気分によって変わりますので、傾向程度に捉え柔軟な視点で観察すると良いです。